夢女日記

今日も元気に夢見てる

ガラスの靴は落とされた《Ⅱ》

金田さんはあの日と同じように楽器を奏でていて、私なんかきっと見えてはいないだろう。
仮に見えていたとしても無視を決め込むことだろう。それほど私と金田さんの間には何の関連性もないし、そもそも金田さんが私にこだわる必要性はどこにもない。だって私は金田さんに体を渡したわけでもないし、唇だってささげてなどいない。金田さんも同じで、私には何もささげていない。けれども、野良猫のように金田さんは私の部屋にきて当たり前かのようにそこで過ごす。




当時の私はそんなことが予測できていたか、と問われたのならば、答えはNOである。




メッセージ性のある歌詞はまるで私に投げかけられたかのようだった。生きている価値とは、今、本気で生きているのか。それはただ単に生きているふりをしているだけで、根は死んでいるのではないか。だとか。MC中にバカ女の歌だよ、と吐き捨てられた曲はまるで私だった。何の感情も宿らない視線を私も金田さんも互いに向けていて、過去に戻ったかのようだった。軽いピアノ伴奏と、ともにジャズ風味の踊るようなドラムの刻みが入り込み、まるで夜を連想させるようなふわり、とけれども淫靡なフレーズがベースとギターから流れる。





確かあの日も一曲目はその曲だった。





何回も聞いたから歌詞はよく覚えている。田舎から出てきた女の子が自分だけは特別だと信じて、最終的に人生が壊滅的になる話だ。金田さんに憧れて恋しくて私が行きついた先のような曲で。まるでお前みたいだね、と吐き捨てられた曲だ。嫌いでもないけれど好きではない。金田さんは随分と気に入っているようで、機嫌がいいときはよくその鼻歌を歌っていた。まるで私を馬鹿にするかのように。




初めてみた金田さんのライブ姿。全公演終了後に思わず彼に話掛けてしまったのが人生の過ちというものだっただろう。もしもあるとするのならば。別の人に話掛けていたのならば、きっとまた別の未来になっていた。それは当然のことだけれど、今更そんなことを考えてどうなるというのだ。私は、金田さんに話掛けてしまって、その優しい顔に、動作に、柔らかな口調に惹かれてしまったのだった。




「へえ、初めてのライブですか。選んでくれてありがとうございます」
「いいいいえ、す、すみません」




私なんかが話しかけてしまって。とか勝手に自己嫌悪に陥ってしまって。そんな私の癖はそれから一年たった今でも抜けていない。いま、まさに開演したこの瞬間でさえ、私は、ただごめんなさい、来てしまってごめんなさいと思っているのだ。



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長くなってしまった上に、話の展開を忘れてしまった。