夢女日記

今日も元気に夢見てる

ガラスの靴は落とされた《Ⅰ》

初めて出会った日もこんな薄暗い中で、でももっと人は少なかった。
私はただの、コスプレ同好会の紅一点でもなんでもないメンバーで、ちくちく毎日来るべき日のための衣装をずっと縫っていた。
ずっと昔の時代の、華やかなドレス。まるでソーシャルゲームに出てきそうな、少し露出度は高いけれど、華やかなドレスを、私は来る日も来る日も作ってはこっそりを着ていた。スタイルには自信がないから、仲間内だけでこっそりを着てはキャッキャウフフと楽しんでいたそんな、女子学生に過ぎなかった。




金田さんと出会う前の私は、自分、そのものに全く興味がなかった。というよりむしろ、自分という存在が大嫌いで、SNSのアバターこそが正義だった。実際出会っては話せない、意見できないくせに、SNSを通じてなら自分はどこまでも大きな存在になれた。何でも言えて、誰とでも話すことができる、アバターの自分が大好きだった。何か嫌なことがあれば、少しだけフェイクを混ぜて投稿すればみんなが優しくしてくれて、私は正義だと、悪人は向こう側だと信じてくれた。実際問題で、どちらが悪いとも言い難い問題であっても。




初めて足を踏み入れたライブハウスは自分の予想よりもずっと環境が良かった。もっとタバコくさいと思っていたし、耳にピアスを開けた柄の悪い人ばかりだと思っていたけれど、実際出会った方は私のこんな醜悪な見た目でもずっと優しかった。そもそも、私がライブハウスに足を踏み入れたきっかけは別に好きなバンドが~というわけでもなく、むしろ付き添いだったのだけれども。




友人の彼氏が出るらしい。人が少ないから、チケット割引するからと。とにかく連れてこまれたのがその日だった。京都だった。そのバンドがメインというよりは、色々なバンドが少しずつ演奏するような、そんな形式。ワンマンでもツーマンでもない。




ギターやドラムが騒ぎ立てて、声がのる。ああ結構好きかもなあとぼんやりしていたところで、その瞬間はきた。舞台チェンジ。友人は彼氏の演奏が終わるとすぐに舞台最前列から離れてしまって私は一人だけ取り残されて。私もはけようか、どうかとしている間に幕は開いた。
今日のバンドの中では一番人気があるのだろうか。最初から歓声が違った。後ろから人が押し寄せて、柵に体がめり込む。ひい、と悲鳴を上げたが彼らにそれはお構いなし。ただただ押しつぶされるだけだ。逃げようにも曲が始まってしまった以上は逃げられず、懸命に柵から距離をとるけれど勢いがすさまじい。




ドラムが鳴る。ヴォーカルは何かを叫んで、観客たちが一挙に頭を振ったり、叫んだり手を挙げたり。見様見真似、押しつぶされながら行うとなんだか楽しくなってきて、自然と笑顔になった。こんな変なテンションの上がったことなんか、今までで一度もなかった。ライブって楽しいものなんだな、このバンドの曲をまじめに聞いてみたいな。ライブ終盤ではそんなことも思っていた。




リズムに体がなれ始めると、随分気持ちの面でも余裕ができ、落ち着いて舞台を見ることができた。ギターにヴォーカルにベースとドラム、あとキーボード。途中でバイオリンもあったし、なんだか色々やっているバンドだった。衣装はスーツを着込んで、照明に汗が照らされていて、なんだか特殊加工された本のようにキラキラと光っていて、きれいだった。曲のジャンルはロック。終始ドラムとベースは互いを見合ってテンポをキープしあっていたし、ギターは安定したリズムの上にのびやかに踊る。そしてキーボードはそこに彩りを与えて、それをヴォーカルが丁寧にぶち壊していくような、そんな音楽だった。




華やかなそんな世界が私の目の前に広がっていた。影にしか生きることができない私とは対極だった。バンドマンを目があえば、不敵に笑われ、なんだか自分がとてもみじめに思えた。お前なんか一生こちら側になんか来れないぞ、と言っているかのようだった。



写真:ぴくさべい
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もう少し書きたかったけど、これ以上書くと長くなりすぎるので。