夢女日記

今日も元気に夢見てる

貴方が私に遺すもの

ふと気になって部屋にどれだけ自分の物じゃないものがあるのかを調べてみようと思った。
金田さんはしばらくここには来ないのだから、ちょっとぐらい場所が一時的に変わっていても大丈夫なはずだ。




手始めに玄関。靴はない。そして洗面所。歯ブラシは、いつも持ってきて持って帰っている。
洗濯物もタオルが一枚二枚だけれど、私が買ってきたものを彼が私物化しているだけで、もともとは私のものだ。
クローゼット。あ、シャツがある。衣装用と私服用がそれぞれ一着ずつ。それに伴って靴下も二足分。
財布や貴重品はもちろんないし、下着だってない。
そういえば私は金田さんの衣服を洗濯したことがなかった。
家族でも、彼女でもないのだから当然といえば当然のことなのだけれども。
なんとなく、金田さんは私に心を開いてくれているわけではないのだと、そんな気がしてしまった。
実際そうなのだとおもうけれど。





玄関から順番に確かめて、やっとリビング。
やっと私の趣味でも私物でもないものがたくさん出てきてくれた。
ジャズバーの名刺、よくわからないバンド?のチケットの半券。楽器の部品のようなものに、なだらかな曲線とは程遠い鋭角の山を描く譜面。





残念ながら私は音階のない譜面が不得意だし、ジャズなんか私の趣味じゃない。
ギターやドラムがばかみたいに暴れている音楽が好きだ。
バンドのライブチケットも、私が行ったのは金田さんのものだけだ。



つまり、これらは金田さんのもってきたものなのだ。
自分のものじゃない、けれどもだからと言って邪魔とも思わないのはきっと、私が金田さんのことが好きだからだろう。
そして、彼に影響されて少しずつ好きになったというのもある。




好きじゃなかったジャズは気分転換にかけ始めたCDコンポからかろやかに流れているし、
ちょっとした気の迷いでさっき、とあるバンドのチケットを購入したばかりだ。
相変わらず譜面を読むのは遅いけれど、音階はわかるようにはなった。




金田さんが好きだから、好きになっていった。
だとするのならば、私が金田さんを嫌いになったら、それらもきっとすべて。
けれどもそれは残酷なことで、音楽は日常にあふれているし、ジャズなんかどこの喫茶店でも美容院でも使われているだろう。
そのたびに私は恨めしく、何度だって金田さんを思い出してしまうのだろう。




私はまだ二十代で、平均寿命から考えればまだまだ人生の余白は残されている。
おまけに病気ではあるけれど、たばこやアルコール、薬物はしていないし、する予定もない。
その病気だって精神的なものであるから、気の持ちよう、といわれたのならそうなのだ。
栄養価の高い食事をとって、睡眠時間も確保できて、ストレス処理が正常に行われていたのなら、私はきっとまあまあ長生きはするだろう。




対して金田さんはどうだろう。
体に悪いことは一通り、現在進行形でしていらっしゃるし、笑ったりはするけれど目は大体死んでいる。
私と一緒にいないときはどんな生活をしているのか知らないけれど、きっとろくな生活を送ってはいないだろう。
このまま生きていれば確実に私より早く死んでしまう。




この恋がかなったとしても、終わったとしても、結局のところ。
私は金田さんを失う運命にある。
遺された時間を、私はただ、残酷に何度も思い出してしまうのだ。





いつまでもひどい男であり続けるのね、金田さん。
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