夢女日記

今日も元気に夢見てる

侵食されていた日常

金田さんがここを出てから二日以上が過ぎた。
半年以上前は私はここに一人で住んでいたというのになんだか随分と広く感じられた。
それほど、金田さんは頻繁にここに来ていたのだ。





今日は休日で、幸いなことに資格勉強を除いてはやることがなかった。
目覚ましもかけずに朝をゆっくりを過ごして勉強に向かうわけだが、時間が過ぎる音がやけにうるさかった。
カチコチ、カチコチ、ボーン、ボーン





金田さんと一緒にいるときはそこまで気にならなかったはずなのに。
なんだかムカついてしまって時計の電池を抜いた。
ついでに携帯の電源も消して、パソコンの電源も抜いて押入れに全部まとめて入れておいた。





部屋はほぼ無音になってしまって、外の音がよく聞こえていた。
しばらく懸命に腕を動かしていたけれど、集中力は長く続かなかった。
ああ、もう今日はきっとそういう日なのだ。
仕方がない。そういえば排卵日から生理周期に入るまではPMS?でだるさやイライラ感があると言ってた。誰かが。





きっと誰かが。そう言っていた気がする。
だから、今日の集中力の悪さは仕方がないことなのだ。
そう、自分にとって都合のいい理由を探してついには、シャープペンシルをころころ、と転がして、そのままベットに飛び込んだ。




このベットは自分しか眠っていないので、当然自分のにおいしかしないはずなのに。
なんとなく顔を深々をうずめていたら、少しぐらい金田さんの匂いがするんじゃないか、と思ってしまう。
たばこ、にがい匂いと、柔軟剤のあまい匂い。





いつのまにか距離は近くなってしまったけれど、本当はどれだけ距離が縮まっているのだろう。
私が触れることを決して許さず、金田さんもまた私には決して触れようとしない。
けれども、一つ屋根の下で夜を過ごして朝を迎えるのはもう何度だって繰り返してた。




「…怖いなあ」




当たり前になりつつある日常が。
部屋に少しずつ増えてきた、私の趣味じゃなかったものが。
金田さんの痕跡が。




いつかすべて失ってしまう時が来るのだろう。
その時が来て、私は彼なしで生きていけるのだろうか。
当時私が持ち合わせていたすべてをささげた彼を、失った後で私は彼を、





そんな世界を恨まずに生きていくことができるのだろうか。





案外図太く、しぶとく生きているのかもしれないけれど。f:id:Azhtyg:20170514130641j:plain