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夢女日記

今日も元気に夢見てる

流星の流れ屑

「あれ、ハイエースだ」
「ちょっと山に行くからね」
「は?山?」

 

 

 

夜23時。もう少しすれば日付が変わって今日は昨日に変換されて、同時に明日が今日になる。そんな時間に金田さんはバンド用のハイエースを私の家まで乗り付けて、今だ。場所は知らなかったし、でも朝にスニーカーの方がいいと言われていたので、動きやすい服装はしているけれど。

 

 

 

「今日は楽器ないから広々座れるよ」
「後ろ座ったらいいです?」
「なんで?」

 

 

 

好きなのに、いざとなったら逃げてしまうのは昔から何に対してもだった。なんだか私はそこの場所に値する人間でないと、人間ですらない何か化け物だと思ってしまうのだ。

 

 

 

「え、あ、」
「隣に座ればいいじゃない」

 

 

 

ジャアジャアシツレイシマシテ。そんなカタカナが似合うデタラメな言い方をしてそのまま助手席に乗り込んで黙ってシートベルトをつけた。金田さんもそれを確認してから自身のシートベルトをつけて私の知らない目的地まで運んでいく。

 

 

 

幸いなことに私の住み家の近くは大学があり、比較的街灯も多い。しばらくの間はぼんやり外を眺めてどこへ行くのか、と考えていた。けれども街灯が少なくなるにつれて、まるでこれは人生の縮図のようだとさえ思えてきたのだ。

 

 

 

「明日も学校?」
「え、あ、はい」
「なのに夜予定空けてくれたのね」
「そりゃ、金田さんですし」

 

 

 

ハイエースは細い細い道の中を入って、ついには街灯は見えなくなった。乗り込んでどれだけの時間が経っていただろう。

 

 

 

「危機感がないよね」

 

 

 

ハイエースはどこへ向かっているのだろう。目的のない、その場所まで。外は真っ暗でなんの明かりも無しで外に出て仕舞えば前後左右もわからなくなったことだろう。

 

 

 

「私、殺されるんです?」
「やだーおれ、殺人者になりたくないー」

 

 

 

そもそもどこに殺す理由があるのって言う前にそこはまず犯されるとか、思い浮かぶもんじゃないの?と金田さんは車を停めて、こちらをじっと見ていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

私は何も答えられず、ただ外を見るだけだった。真っ暗。車のライトも決して仕舞えばそれこそ何も見えなくなるほど、辺りは暗い。まるでこの先の未来のような。

 

 

 

「本当は、昨日くる予定だったんだ」

 

 

 

でも、ひどく泣いて帰ってきたらからね。それどころじゃなかったよね。エンジンが止められて辺りは静まり返る。気まずくなって外に出ようとしたらロックを素早くかけられた。外そうとしてもその度に彼はロックボタンを押す

 

 

 

「外にでちゃダメだよ」
「どうしてです?」
「君、よからぬことを考えているから」

 

 

 

金田さんは何度となく続く攻防戦にしびれを切らしたのかわたしの腕を掴んで自分に目を合わささてきた。端正な顔が近づいてきたけれどそこにはわたしが夢を見るような甘い展開はない。

 

 

 

「昨日ここには、たくさんの星が降り注いだ」
「……」
「もしかしたら今日もいきそびれた星があるかもしれない」
「……」
「君の願いは何?」

 

 

 

わたしの願いは何だろう。金田さんとずっと一緒にいたい、可愛いと思われたい。優しくされたい、優しくしたい。綺麗になりたい。痩せたい。賢くなりたい。お金が欲しい。でも本音は。

 

 

 

「死にたかった」

 

 

 

祖父が死ぬよりわたしが死ねばよかった。なんの功績もないわたしなんかが生きるより、ずっと素晴らしい祖父が。この世の何もかもから解放されて羨ましかった。実りのない恋から、病気から、明るくない未来の、何もかもから解放されて、私はただただ羨ましかった。

 

 

わたしが一番、死にたかった。

できることならあなたの手で。

 

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