電話
金田さんは今日ミーティングだから、と言って晩御飯の後すぐに家を出て行った。その後に私が一通りの片付けをしていると電話が鳴って、祖父が亡くなったことを知った。
別に家族と犬猿の仲だとか、勘当されたとか何か特別な事情があるわけではないけれど、家族とはなかなかの疎遠だった。危篤状態が続いているとは耳にしていたが、私が見舞いに行った時にはもうすでに私が私だと認識できないほど弱々しくなっていた。
小さな病室の中で親戚一同集まって、葬儀の取り決めをしていて、その間私は母と他愛のない話をする。いとこの誰それが結婚するらしい、あなたはどうなのとか、病気はどうなのとか。金田さんのことは言っていないけれど、良い人はいるよとだけ、話を濁した。もちろん年齢と職業も濁して。
「あ、母さんごめん。ちょっと電話」
電話が鳴って、相手は金田さんだった。時間は夜もう遅かった。ずいぶん長くここにいるようだった。急いで外に出て通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「いまどこ?大丈夫?」
「え、あ、その、ミウチノフコウで……」
「…………は、ぁ。よかった」
電話口から聞こえる声は少し怒っているようで、それでいて私の声を聞いた途端安心したようだった。
「帰っていないからさ、心配しちゃった」
「あーすみません、急いでいたので」
「おまけに電話も出ないし、さ」
「病院だったので、すみません」
あれなんで私謝ってるんだ?ていうか、金田さんはなんで普通に私の家に帰ってきているんだ?と様々な疑問符が生じるけれど、金田さんの特別になれたようでちょっとだけ嬉しかったのは秘密だ。
状況はよろしくないけれど。