チーズケーキ
外に遊びに行くことをデートだと言って、金田さんを連れ出すことに関しては金田さんは特別何かを言うわけじゃない。けれども私のことは彼女でも恋人で無いと、馬鹿にした口調で言うが、私という存在に別の固有名詞をつけられているわけで無い。異性であるけれど金田さんは私に必要最低限にしか触れないし、私が金田さんに触れることは許されてなどいない。
「今日はいい天気ですね」
「そうだねー、五条もいいところだね」
「特別何かあるわけじゃ無いですけどね」
京阪の清水五条。繁華街である清水四条の1つだけ大阪寄りのそこは、駅周辺に特別何かといった観光名所は無い。しばらく歩けば伝統的な京都の街並みが広がるけれど、駅を出て見えるのは鴨川ぐらいだ。
四条と違って緩やかな傾斜はなく、カップルが座り込んでいるわけでも無い。しかし、歩道は整えられており、多少ヒールがある靴でも十分に歩くことができる。今日はスニーカーだけれども。
「少し歩いて、喫茶店でも入ります?」
「五条だったら、あ、あそこ」
「あー見たことあるような、」
「Leafに載ってた気がする」
「金田さんのおごりです?」
「……仕方ないなぁ」
やった。知らないふりをしていたけれど、ここは少し前から私が目をつけていた場所だ。金田さんは大の甘いもの好き、普段はインドア派だけれども甘いものとなれば話は別。というぐらいに行動的になる。金田さんが興味を持ってくれるよう、さりげなく雑誌を準備しておけばあとは、さりげなく誘い出して、だ。
店内に入ると初夏の爽やかな日差しが窓から差込んでいた。店員さんが持ってきてくれたメニューには可愛らしい手書き文字で、たくさんのメニューが書かれており、私は迷わず、名物のチーズケーキに決め込んだ。
金田さんはチーズケーキを頼もうとして、店員さんに断られていた。というのも、私が頼んで最後だったらしい。悔しそうな顔をして、ガトーショコラを頼んでいた。
「はいはい、一口あげますよ」
「イイエ、オカマイナク」
「また、来ましょうよ」
金田さんはぼんやりと鴨川をのぞいていて、私の問いかけには適当な返事をしただけだった。運ばれてきたガトーショコラもショートケーキも美味しそうで、一口食べるとやっぱり美味しかったのだけれども、なぜか少しだけしょっぱい気がした。