特急電車
人生をやり直すのならいつが良いだろうかと考える。それぞれの場所へ導く駅のホームからは小学校が見えて、大きく開かれたその窓から小さな頭があった。こちらに手を振っているけれど、振り返せば急に恥ずかしくなったのか窓辺からその姿を消した。
戻るのなら小学校の時だろうか。
いやいや、地元中学は京都一を誇る荒れた学校だからと受験を勧められたあの時代にか。
だとするならばその後の女子校生活だろうか。世間的に見れば百合だの、花園だと言われるが実際は動物園としか言いようがないそこにか。
なら大学はと、思い出したくもなかった過去が私を包み込む。
「なに、考えているの?」
「金田さん、人生をやり直すのならと」
「やり直す?」
金田さんは昨日、うちに帰ってきたのは深夜の2時だった。玄関のチャイムを馬鹿みたいにならされて、だ。寝ぼけなまこ擦って開ければそのまま抱きつかれて眠られて、おかげさまでこちらは突然の来客の床の準備をさせられ、寝不足だ。
ちなみに抱きつかれたけれど、私と金田さんは恋人同士でもなんでもない。ただ、私が心底から憧れて好いて、私の夢、そのものでしかない。世間から見れば、それは甘美な関係に見えるのかもしれないけれど。今だって、前後で並んでおしゃべりしているのだから、誰かしらは勘違いしてくれていることだろう。
「戻れるのなら、とかないです?」
「戻れるなら、ね。無いね」
「え、意外」
特急電車通過の予告が鳴響く。改札は人で溢れている。金田さんはタバコをふかそうとして、隣の人に睨まれてやめていた。
「まだ、今の人生終わってないじゃん」
もしかしたら今から良いことが起きるかもしれないよ、と。ガタガタと大きな機体を揺らしながら特急電車が通過して、私の髪が流れていった。金田さんは一歩だけ前に進んで、私の隣に立つ。
私の過去なんか知らないはずなのに何か知っているかのような口ぶりだった。良いことがなかったわけでは無いけれど、それでも私は、私はやり直したかった。貴方と釣り合いたかったから。
貴方の隣に立てる自分になりたかった。