夢女日記

今日も元気に夢見てる

ガラスの靴は落とされた《Ⅲ》

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友人は彼氏に付きっ切りで、私はなぜだか金田さんと話す機会があってあることないことなんか話して。
私は終始足が浮いていたけれど、金田さんにとってはそれはファンサービスであって、別に私に気があるからというわけではない。
けれども、その後奇妙な縁が続いて、よくわからない関係になっている。
それまでにいろんなことがあったのだけれど。



体重が20キロ堕ちた。実年齢よりもずっと老け込んだ体内年齢は最近少しだけ若返った。自傷の傷は深く刻み込まれていて、まだ消えていない。
とくに首筋に何重にも走ったその傷跡は、まるで首を絞められたか、切り落とされて無理やりくっつけられたかのようだ。
歪な体。愛したくても誰も愛せない、こんな不気味な体を誰が欲するというのだ。




曲が始まる。
金田さんはうっすらと笑みを浮かべてカウントをとる。美しくも子バカにしたピアノが入り込んで、ギターが踊る。
苦しいな、悲しいな。




初めてのライブを終えて、少しだけ会話して、何度かライブに行って、そのたびに少しずつ金田さんを知っていった。
それと同時に金田さんも私のことを知っていった。だからと言って私は別に優越感に浸っていたわけでもなければ、それが恋だったと自覚してもいなかった。ただ、ステージ上に立つ金田さんがきらびやかで、いいな。と思っていただけだった。
注目されて、笑顔になれて、誰かを幸福な気持ちにすることができて、いいな。うらやましいな。
好きだと言ってくれる人がいていいな。私も誰かに言われたいな。とんなことしか考えていなかった。
でも、心の奥底では貴方にそう、思われたいな、とか思っていたのかもしれない。
今となってはわからないけれど。




きっかけは何だっただろう。金田さんが初めてこの家に来たとき、何だと言って私に触れただろう。
それ以来、私には一切触れないし、触れることすら許さない。
ただ、シンデレラみたいだね、とだけ言ったことは覚えているけれど。




後ろから人に押されて横に横に流されて、ようやく今に戻ってくる。
金田さんは今、何を考えて楽器を奏でているのだろう。
そして、ここに集まったたくさんのファンの人は何を考えていま、ここで生きているのだろう。




バカにつける薬、おひとつくださいな




確かにヴォーカルはそう言った。
そんな薬があるのなら、もちろん私にくれないか。
できれば、生まれる前に戻って、お母さんに飲んでほしい。
そしたら今度はまっとうな人生を送れるような気がするの。




写真:ぱくたそ
先日、とあるバンドのライブに行ってきました。
好きな曲やってもらえたので、楽しかったです。
シンデレラって曲なんですけどね。
それが書きたいために、この話始めたようなものです。

ガラスの靴は落とされた《Ⅱ》

金田さんはあの日と同じように楽器を奏でていて、私なんかきっと見えてはいないだろう。
仮に見えていたとしても無視を決め込むことだろう。それほど私と金田さんの間には何の関連性もないし、そもそも金田さんが私にこだわる必要性はどこにもない。だって私は金田さんに体を渡したわけでもないし、唇だってささげてなどいない。金田さんも同じで、私には何もささげていない。けれども、野良猫のように金田さんは私の部屋にきて当たり前かのようにそこで過ごす。




当時の私はそんなことが予測できていたか、と問われたのならば、答えはNOである。




メッセージ性のある歌詞はまるで私に投げかけられたかのようだった。生きている価値とは、今、本気で生きているのか。それはただ単に生きているふりをしているだけで、根は死んでいるのではないか。だとか。MC中にバカ女の歌だよ、と吐き捨てられた曲はまるで私だった。何の感情も宿らない視線を私も金田さんも互いに向けていて、過去に戻ったかのようだった。軽いピアノ伴奏と、ともにジャズ風味の踊るようなドラムの刻みが入り込み、まるで夜を連想させるようなふわり、とけれども淫靡なフレーズがベースとギターから流れる。





確かあの日も一曲目はその曲だった。





何回も聞いたから歌詞はよく覚えている。田舎から出てきた女の子が自分だけは特別だと信じて、最終的に人生が壊滅的になる話だ。金田さんに憧れて恋しくて私が行きついた先のような曲で。まるでお前みたいだね、と吐き捨てられた曲だ。嫌いでもないけれど好きではない。金田さんは随分と気に入っているようで、機嫌がいいときはよくその鼻歌を歌っていた。まるで私を馬鹿にするかのように。




初めてみた金田さんのライブ姿。全公演終了後に思わず彼に話掛けてしまったのが人生の過ちというものだっただろう。もしもあるとするのならば。別の人に話掛けていたのならば、きっとまた別の未来になっていた。それは当然のことだけれど、今更そんなことを考えてどうなるというのだ。私は、金田さんに話掛けてしまって、その優しい顔に、動作に、柔らかな口調に惹かれてしまったのだった。




「へえ、初めてのライブですか。選んでくれてありがとうございます」
「いいいいえ、す、すみません」




私なんかが話しかけてしまって。とか勝手に自己嫌悪に陥ってしまって。そんな私の癖はそれから一年たった今でも抜けていない。いま、まさに開演したこの瞬間でさえ、私は、ただごめんなさい、来てしまってごめんなさいと思っているのだ。



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長くなってしまった上に、話の展開を忘れてしまった。

真夜中のシンデレラ

気が付いた時には、そこは一面真っ暗闇の世界で、あたかもそれは随分昔にみた世界のようだった。
しかし、よく見てみればそこには生生しい暖かさや温度があり、夢ではないことを告げているような気がしたけれど、私にとってはこれが夢なのか現実なのか実際のところよくわかってなどいなかった。一度、呼吸をしてみたけれど、口に入ってくるのは湿った空気だった。ここはどこで、現実なのか夢なのか。わからないけれど、どうにか私はここに存在していた。




少し前のことを思い出してみるけれど、記憶がおぼろげで何も浮かんではこない。
確か金田さんにライブがあると言われたけれど。それが東京で、私は試験を控えていて。
ああ、そうか。結局ライブに行くことを選んだのか。
チケットはコンビニ決済にして受け取って当日の朝にそのまま向かった。
別に彼氏でもなんでもない人のために。
お願いされたわけでもないけれど。




幸いなことに前の方に行くことができて、そのまま人に押しつぶされて手を振ってみたり色々とすることだろう。
金田さんは奥にいるから私のことなどどうせ見えていない。
目が合ったところで、私だと気が付かない。
それに、その視線はきっと、自分と私とは当然、かかわりあえない大きな壁が存在しているのだと、そう主張する視線だ。
生きる世界が違う、そういった表現が正しい。




ああ、どうして私はこんな人が好きなのだろう。
どうして好きなのだろう。
好きになんかなりたくなかった。
そんな思いがあふれ出てくるしい。




幕はまだ閉ざされたままで、開演時間はあともう少しだ。
彼は、彼にとって私は何だろう。
私にとって彼は夢であり、憧れであり、ただの恋だった。





照明は落とされて、黄色い歓声が響き渡る。舞台装置が鳴り響いてそして黒幕は開かれて、金田さんの音が鳴り響いた。
そのきらびやかな姿は、初めて出会った日と何も変わらずに、まるで夢のように不確かな形をとってそこに存在していた。
一斉に後ろから人があふれ出て、もみくちゃになって、叫んで。
まるであの日のようだ。




金田さんは少しだけ笑っていて、すぐに視線を楽器に落とした。
それもあの日と同じだった。




仕草や癖や、情景は同じなのに、ここに存在している意味はずっと異なる。
ただの憧れは愛に変わって、恋はいつしか憎悪に変わった。




金田さん、私をそばに置いているのは、罪の滅ぼしのためですか?


画像:ぱくたそ
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ガラスの靴は落とされた《Ⅰ》

初めて出会った日もこんな薄暗い中で、でももっと人は少なかった。
私はただの、コスプレ同好会の紅一点でもなんでもないメンバーで、ちくちく毎日来るべき日のための衣装をずっと縫っていた。
ずっと昔の時代の、華やかなドレス。まるでソーシャルゲームに出てきそうな、少し露出度は高いけれど、華やかなドレスを、私は来る日も来る日も作ってはこっそりを着ていた。スタイルには自信がないから、仲間内だけでこっそりを着てはキャッキャウフフと楽しんでいたそんな、女子学生に過ぎなかった。




金田さんと出会う前の私は、自分、そのものに全く興味がなかった。というよりむしろ、自分という存在が大嫌いで、SNSのアバターこそが正義だった。実際出会っては話せない、意見できないくせに、SNSを通じてなら自分はどこまでも大きな存在になれた。何でも言えて、誰とでも話すことができる、アバターの自分が大好きだった。何か嫌なことがあれば、少しだけフェイクを混ぜて投稿すればみんなが優しくしてくれて、私は正義だと、悪人は向こう側だと信じてくれた。実際問題で、どちらが悪いとも言い難い問題であっても。




初めて足を踏み入れたライブハウスは自分の予想よりもずっと環境が良かった。もっとタバコくさいと思っていたし、耳にピアスを開けた柄の悪い人ばかりだと思っていたけれど、実際出会った方は私のこんな醜悪な見た目でもずっと優しかった。そもそも、私がライブハウスに足を踏み入れたきっかけは別に好きなバンドが~というわけでもなく、むしろ付き添いだったのだけれども。




友人の彼氏が出るらしい。人が少ないから、チケット割引するからと。とにかく連れてこまれたのがその日だった。京都だった。そのバンドがメインというよりは、色々なバンドが少しずつ演奏するような、そんな形式。ワンマンでもツーマンでもない。




ギターやドラムが騒ぎ立てて、声がのる。ああ結構好きかもなあとぼんやりしていたところで、その瞬間はきた。舞台チェンジ。友人は彼氏の演奏が終わるとすぐに舞台最前列から離れてしまって私は一人だけ取り残されて。私もはけようか、どうかとしている間に幕は開いた。
今日のバンドの中では一番人気があるのだろうか。最初から歓声が違った。後ろから人が押し寄せて、柵に体がめり込む。ひい、と悲鳴を上げたが彼らにそれはお構いなし。ただただ押しつぶされるだけだ。逃げようにも曲が始まってしまった以上は逃げられず、懸命に柵から距離をとるけれど勢いがすさまじい。




ドラムが鳴る。ヴォーカルは何かを叫んで、観客たちが一挙に頭を振ったり、叫んだり手を挙げたり。見様見真似、押しつぶされながら行うとなんだか楽しくなってきて、自然と笑顔になった。こんな変なテンションの上がったことなんか、今までで一度もなかった。ライブって楽しいものなんだな、このバンドの曲をまじめに聞いてみたいな。ライブ終盤ではそんなことも思っていた。




リズムに体がなれ始めると、随分気持ちの面でも余裕ができ、落ち着いて舞台を見ることができた。ギターにヴォーカルにベースとドラム、あとキーボード。途中でバイオリンもあったし、なんだか色々やっているバンドだった。衣装はスーツを着込んで、照明に汗が照らされていて、なんだか特殊加工された本のようにキラキラと光っていて、きれいだった。曲のジャンルはロック。終始ドラムとベースは互いを見合ってテンポをキープしあっていたし、ギターは安定したリズムの上にのびやかに踊る。そしてキーボードはそこに彩りを与えて、それをヴォーカルが丁寧にぶち壊していくような、そんな音楽だった。




華やかなそんな世界が私の目の前に広がっていた。影にしか生きることができない私とは対極だった。バンドマンを目があえば、不敵に笑われ、なんだか自分がとてもみじめに思えた。お前なんか一生こちら側になんか来れないぞ、と言っているかのようだった。



写真:ぴくさべい
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もう少し書きたかったけど、これ以上書くと長くなりすぎるので。

夜への覚悟はあるのか

ライブがあるんだ。



金田さんからの久々のメッセージはただその一言だった。
どこで、何時から、そもそもいつだよ、と情報をつけろよ。
と若干のいらだちを感じたものの幸いなことにバンド名を知っている上に、知らなくても金田さんのSNSから飛べばいいだけの話だ。
それぐらいは調べる能力は持っている。
日常生活のほとんどを計画立てて遂行できているのだから、そんなこと余裕だ。
ネットに顔を軽率には出してはいけません、ツイッターは発信ツールだからと言って人を傷つけるようなことは言ってはいけません。
そんなことだって私は知っている。
めっちゃリテラシー高い系だから知っている。




そんな話をしたいわけではない。




バンド名をぐーぐる先生に打ち込んで0.01秒で検索結果が表示される。
その一番最初のリンクにそのバンド名はあるし、画像検索結果では新しいアーティスト写真が表示されていた。
うーん。2つ前ぐらいの方が好みだけれど、これもこれでかっこいい。




じゃなくて。




明日ライブ。夜にライブ。東京でライブ。




ここは京都で私は来週に試験を控えていて、勉強がやばいわけではないけれど東京でライブ。
確かに日本の首都は東京であって、世界最大密度の人がいるとは言うけれど。
軽率に東京でライブしすぎじゃないですか?軽率にツアーのラストを東京にしがちじゃないですか?
まって。そして、そんなことを今更私にいいますか?



金田さん、いろいろ待ってくれ。
状況を察するに、明日行われるライブは彼らの過去最大規模で行われる。
そして前日に私に連絡をするのだから、これはおそらく、きっと。
人が。
うん。
考えたくない。




連絡はただその一言だったので、アプリ自体は開いてなどいない。
あいふぉーん。のぽっぷ通知で確認した。
既読にすらなってないし、私はこのまま金田さんの発言を無視してしまうことも可能なのだけれど。
むしろ、関係を断ち切るには無視をするべきなのだろうけれど。




そうしてしまっていいものだろうか。




考えるけれど、答えは出てこない。それが正解なのか、そうでないのか。




そもそも、東京のライブ会場に行く勇気が私にはない。
なんだかとても怖いのだ。向き合ってしまうことが。
あの視線に、事件に目を向けることが。




ホーム画面に戻ると、ラインは一件の未読連絡通知を示したままだった。
見るか、みないか、無視を決め込んでしまうか。
そんな簡単な、指先の動きで私は過去も未来も決めてしまわなければいけなかった。

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そしてバカだと笑ってほしい。

模擬問題を解いて、解けなかった単元は教科書を見直して、問題集を解いてを繰り返す。
ただそれだけで、不安は募っていく。
ある程度の問題は解ける用にはなったけれど、実際には私の実力はついているのだろうか。
本当は、この問題は解答方法を覚えているだけで、応用力は全くないのではないか。
そんな不安ばかりが募っていく。




ふと気になることがあって、リアルアカウントを起動させようとしたけれど、パスワードやらなんやらが変わったせいで入れない。
悲しいというより、もう本当にSNSでも金田さんとのつながりがなくなってああーってとりあえずなった。
といっても、別のアカウントから見なおせればいいだけの話だけれど。
ちょっと興味が戻って、アカウント名とIDを打ち込むとやっぱり金田さんはいつものかっこいい写真と共に出てきて。
ツイートを見てみるけれど、これと言って目立った更新は何一つとしてなかった。




ライブしますという宣言をリツイートしているだけ。
本人のつぶやきは何一つとしてない。
これじゃあ、生きているのか死んでいるのか実際、よくわからない。




新しい朝を迎えたというのに、気分はすぐれない。
今日は今日だってやることがたくさんあるのに、心は動いてくれない。
はあ、だかふうだかひどいため息をついて勉強机に向かうけれど、内心は色々な感情で埋め尽くされている。




試験、どうしよう
金田さん、どうしよう
ここの荷物、どうしよう。
私の人生ここから、どうしよう。




うだうだ悩んでいても、苦しんでいても仕方がないというのに、浮かんでは消える。
そして生まれていく。そういった負の感情が重なり合って苦しいけれど、仕方がない。




シャープペンシルを手に取る。
問題集をめくる。見慣れたそれはもはや手を動かさなくとも複雑な計算は覚えてしまっていて、この行為に意味があるのかと問い続けている。
だからと言って、今の時期から新しい問題集に手を出すのもいかがなものか。
ともはっきり言って思うのだ。




ぴこん!と威勢のいい電子音が鳴り響いて、思わず手に取った。
もしかすれば、とかそんなよこしまな思いがあったのかもしれない。
高まった心を静めて、画面を見ればそこに刻まれていたのは。
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ずるい大人に恋をした。つらい。

金田さんがいない生活にも随分なれた。
電話もラインもすべて通知はならない。SNSのつながりですら、ログアウトしてしまったので見ていない。
だからと言って別に特に困ったことはないのだけれど。
つまるところ、私と金田さんはきっともう、なんのつながりもなくなってしまったのであって、それが悔しいと同時にひどく悲しい。




金田さん、東の方は暑いですか?
昨日の京都はバカみたいに暑かったですよ
心の中で問いかけた言葉は誰も拾うこともないのだ。




職業訓練ももう終わってしまった。
残るは資格試験だけれども、受かる保証はどこにもない。
最終的にはすべて運頼みなところもある。
不安で、押しつぶされそうで、怖くて。だからと言ってこの負の感情を吐き出せるような空間なんかどこにもない。
苦しい、悲しい、寂しい。
私の中で、金田さんは本当に大事な立ち位置だったのだ。




そこにいたら、いたらで苦しいのだけれど。




この際、再就職先を実家付近か、もしくは金田さんから本当に離れてしまって東京の方にしてしまうか。
そんなことを考えたけれど、いつかまたきっと私のところに戻ってきてくれると信じてしまうのだ。
そんな確約などどこにもないのに。




帰ってきてほしい、と同時に帰ってきてほしくない。
そんな相反する感情が埋め尽くして悲しい。




今日は朝6時に起きて、そこから散歩に出かけた。
朝食もちゃんと食べて、炊事も洗濯もおそうじだってした。
髪の毛を切ろうかと、病院に行こうかと思ったけれど、それよりやっぱり勉強がしたかった。
だから、もう勉強をする。
就職して、普通の人間になりたいから。
金田さんのことを忘れるぐらいに仕事をこなしたいから。
私の知らない私に出会いたかったから。




憧れはいつだって胸の中にあるけれど、その基準でさえ金田さんが入り込んでいることが悲しい。
いつだって金田さんは、ずるい人だった。




忘れさせてなど、くれないのだから。
きっとこの先も私がどれだけ死んで生まれ変わろうとしても、まるで影のように私にひっそりと付きまとってくるのだ。
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