夢女日記

今日も元気に夢見てる

バナナジュース

そして夜になった。
家に帰ってもよかったのだけれどもなんとなく帰りたくなくて自宅近くの洋食屋に立ち寄ることに決めた。
幸いにもまだ混む時間帯ではなかったらしく、すぐに入ることができた。
京都で、ちょっとした有名店のお店。
私のお気に入りのお店。




店内にはおしゃれなジャズが鳴り響いていて、ああやっぱり。
私はなんとなく金田さんのことを思い出していた。
私の自慢のお店の一つではあるけれども、ここに金田さんを招き入れたことはない。
それほどまでに大事にしているお店なのだ。
この場所だけは金田さんに染められたくない。



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まもなくして料理が運ばれてきて、暖かな料理に舌鼓を打つ。
ここの洋食が本当においしい。
サラダが有名なお店なだけあって、サラダ・ソースが絶品で。その贅沢な付け合わせである牛ステーキも御飯にとてもあう。
ちょっと甘めで、且つ、香ばしい味がごはんに、本当にあう。
前菜であるコーンスープもきっと業務用の物を使っているに違いないのだが、ちゃんとこしてあるおかげで、不快な舌触りはない。



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人のつくったごはんを食べるのが随分と久しかった。
金田さんといるとどうしても自分が作るはめになる。
それは、金田さんが貧乏とか甲斐性なしとか、そんなことではなく。
彼女でも家族でもないやからにお金を出させてしまうことが申し訳ないからだ。
本音がどうなのかは全く知らないけれど、幸いにも金田さんは文句はいわない。
それどころか、おいしい、と言って食べてくれる。




自分自身でも、自分のごはんが壊滅的に悪いとは思わないけれど、それでも他人が作ってくれたごはんの方がおいしいと思う。




デザートにはバナナジュースを選んだ。コーヒーでもよかったのかもしれないけれど、ここのバナナジュースは絶品だ。
少しドロドロとしたのど越しがいい。あまり甘くなくて、これだけで1Lは飲めるし、飲みたいけれど、やはり高い。
いつか、また働き出して給料が満額でて、生活に余裕がでたらやってみよう。
そんな変な目標ができてふふふ、と笑ってしまった。



外はまだ明るいけれど、家に着くころにはもう暗くなってしまっているだろう。
明日はハローワークの認定日だから、学校はない。
今日少しだけさぼってしまった分を深夜に取り戻してもかまわないし、一層のこと眠ってしまってもよかった。
さあ、今日はまだまだ終わらない、帰ったら何から始めようか。



写真:京阪伏見桃山 サラダのお店サンチョ 

基本料金2000円+

今週のお題「髪型」


どうせ家に帰っても集中力がないのは同じことなのでこのまま美容院に行くことに決めた。
長い髪の毛を一層のこと、ショートぐらいまで切ってしまえばいいと、思ったからだ。
髪を切って人生が開けるわけではないとは思うけれど、それでもいい気分転換にはなる。




重々しい黒い髪の毛を染めてみてもいいかもしれない。
体の都合もあるから、ちょっとぐらい派手に染めてもいいかもしれない。
灰色のメッシュを入れてもかっこいいかもしれない。
とにかく、今の私は自分を、自分自身で何かを変えたくて仕方がなった。




からん、と美容院の扉を開けると随分とこんでいるらしく、簡易的な受付を済ませたあと1時間ほど待つことになった。
外で待ってくれても構わない、と言われたけれど普段ほぼ全く目にしないファッション雑誌に惹かれて店内で待つことに決めた。




華のセブンティーン向けの雑誌は私には少し若すぎるけれど、今なら堂々を見ることができる。
ああ、こんな服が着てみたかった、あんな友達が欲しかった、と少しだけ思いながら過去と未来を行き来する。
髪を切る、そんな感覚で過去とも決別ができたらいいのに。





過去に未練や後悔がないといえば全くの嘘になってしまう。
けれども昔よりもずっと今の方が幸せだと心から思える。
私はきっと、本当の私はきっと随分昔に死んでしまったのだから。
殺してしまったのは、まぎれもなく私と、私の世界だった。




「お客様、大変お待たせいたしました。本日はどのように?」
「ええ、と」




ついに自分の番が回ってきて、頭ではこんな髪型にしようと決めていたのに、口から出てきたのは。



「伸びた分をカットで」



そんな面白味のない言葉だった。
席に案内されて、特にこれといった会話もせずに、髪の毛は切られて、随分見慣れた自分がそこにいた。
少しだけさっぱりとはしたけれど。




変わろうと思っていたはずなのに、変われなかった。
結局、今もまだ私は過去に置き去りにされたままだ。
ね、過去の私、寂しいね。ごめんね。
でもね、愛してあげられないよ。
私のこころは、彼のものだからね。




「素敵にしてくださって、ありがとうございました」



それでもね、昔より少しだけ自信がついたよ。
髪を切って人生はすぐには変わらないけれど、何かのきっかけになってくれれば。とは思う。
心底から。




自分の人生はきっとまだ長い。劇的に変わることはないかもしれないけれど、それでも未来を夢見て空を仰ぐ。
美しい夕焼けだった。
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監視している神様。

ちょうど三時になったので、気分転換がてらに外に出て近所の喫茶店に入り込んだ。
幸いにも、ジャズなんか流れず、日曜日だということもあってバラエティの再放送が流れていた。
見慣れたメニューから、いつも通りパフェを頼んで、ぼんやりと画面を見ていた。
おしゃれな空間で、メニューだっておしゃれなのにどうしてなのか、ここはテレビを流す。
平日なんか下世話な芸能界ニュースをここの店長のおじさんが食い入るようにしてみている。
なんだか、少しアンバランスな気がするけれども、味は確かだ。




運ばれてきたパフェはやっぱり可愛くて、とりあえず、携帯でぱしゃあーっと写真を撮った。
金田さんに、おやつ、とか一言添えて送信しようかと思ったけれどやめた。
彼女じゃない私がしても別に気持ち悪いだけだ。



とりあえず、携帯をカバンの中にしまって実食。
ひんやりとした冷たさと、甘さが口のなかいっぱいに広がって幸せな気持ちになる。
クリームの上にかけられたチョコレートソースは少しずつ固まり始めていて、触感が口に入れるたびに変わるのが素晴らしい。




穏やかな日曜日。
お客さんも少なくて、静かに笑い声が響いていたのは、バラエティ番組からのそれだ。




金田さんを知る前の私はどうやって過ごしていたのだろう。
人生を終えそうになる少し前に知って、そこから今の人生が始まった。




死のうと思っていたのに、人生どうなるかわからない。
憧れて夢でしかなかった人と、良く分からない関係になっているのだから、人生よくわからない。
捨てる神あれば、拾う神あり、それが。
私にとって神様は金田さんだった。




でもその神様はいじわるで、よくわからなくて、私のそばにいる理由がどこにもない。
その理由を聞けばいい話だけれども、私の加護がなくなってしまうように思えて聞けない。




ぴこーん、とラインの通知音がなった。反射的に携帯のロック画面を見てみると金田さんからだった。
今日のおやつ。そんな一言とともに、チョコレートのパフェの写真が送り付けられていた。
偶然ですね、と一言添えて私も同じように写真を返して思うのは、この神様はまるで私を四六時中監視しているかのような、そんなタイミングで行動を起こしてくれるのだ。
だから、離れられない。聞けない。




金田さんが私の手の届きそうな範囲にいることがすでにもう、日常になっていたのだから。




写真:ぽぽろヒロバ。 京阪藤森駅近く。

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貴方が私に遺すもの

ふと気になって部屋にどれだけ自分の物じゃないものがあるのかを調べてみようと思った。
金田さんはしばらくここには来ないのだから、ちょっとぐらい場所が一時的に変わっていても大丈夫なはずだ。




手始めに玄関。靴はない。そして洗面所。歯ブラシは、いつも持ってきて持って帰っている。
洗濯物もタオルが一枚二枚だけれど、私が買ってきたものを彼が私物化しているだけで、もともとは私のものだ。
クローゼット。あ、シャツがある。衣装用と私服用がそれぞれ一着ずつ。それに伴って靴下も二足分。
財布や貴重品はもちろんないし、下着だってない。
そういえば私は金田さんの衣服を洗濯したことがなかった。
家族でも、彼女でもないのだから当然といえば当然のことなのだけれども。
なんとなく、金田さんは私に心を開いてくれているわけではないのだと、そんな気がしてしまった。
実際そうなのだとおもうけれど。





玄関から順番に確かめて、やっとリビング。
やっと私の趣味でも私物でもないものがたくさん出てきてくれた。
ジャズバーの名刺、よくわからないバンド?のチケットの半券。楽器の部品のようなものに、なだらかな曲線とは程遠い鋭角の山を描く譜面。





残念ながら私は音階のない譜面が不得意だし、ジャズなんか私の趣味じゃない。
ギターやドラムがばかみたいに暴れている音楽が好きだ。
バンドのライブチケットも、私が行ったのは金田さんのものだけだ。



つまり、これらは金田さんのもってきたものなのだ。
自分のものじゃない、けれどもだからと言って邪魔とも思わないのはきっと、私が金田さんのことが好きだからだろう。
そして、彼に影響されて少しずつ好きになったというのもある。




好きじゃなかったジャズは気分転換にかけ始めたCDコンポからかろやかに流れているし、
ちょっとした気の迷いでさっき、とあるバンドのチケットを購入したばかりだ。
相変わらず譜面を読むのは遅いけれど、音階はわかるようにはなった。




金田さんが好きだから、好きになっていった。
だとするのならば、私が金田さんを嫌いになったら、それらもきっとすべて。
けれどもそれは残酷なことで、音楽は日常にあふれているし、ジャズなんかどこの喫茶店でも美容院でも使われているだろう。
そのたびに私は恨めしく、何度だって金田さんを思い出してしまうのだろう。




私はまだ二十代で、平均寿命から考えればまだまだ人生の余白は残されている。
おまけに病気ではあるけれど、たばこやアルコール、薬物はしていないし、する予定もない。
その病気だって精神的なものであるから、気の持ちよう、といわれたのならそうなのだ。
栄養価の高い食事をとって、睡眠時間も確保できて、ストレス処理が正常に行われていたのなら、私はきっとまあまあ長生きはするだろう。




対して金田さんはどうだろう。
体に悪いことは一通り、現在進行形でしていらっしゃるし、笑ったりはするけれど目は大体死んでいる。
私と一緒にいないときはどんな生活をしているのか知らないけれど、きっとろくな生活を送ってはいないだろう。
このまま生きていれば確実に私より早く死んでしまう。




この恋がかなったとしても、終わったとしても、結局のところ。
私は金田さんを失う運命にある。
遺された時間を、私はただ、残酷に何度も思い出してしまうのだ。





いつまでもひどい男であり続けるのね、金田さん。
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侵食されていた日常

金田さんがここを出てから二日以上が過ぎた。
半年以上前は私はここに一人で住んでいたというのになんだか随分と広く感じられた。
それほど、金田さんは頻繁にここに来ていたのだ。





今日は休日で、幸いなことに資格勉強を除いてはやることがなかった。
目覚ましもかけずに朝をゆっくりを過ごして勉強に向かうわけだが、時間が過ぎる音がやけにうるさかった。
カチコチ、カチコチ、ボーン、ボーン





金田さんと一緒にいるときはそこまで気にならなかったはずなのに。
なんだかムカついてしまって時計の電池を抜いた。
ついでに携帯の電源も消して、パソコンの電源も抜いて押入れに全部まとめて入れておいた。





部屋はほぼ無音になってしまって、外の音がよく聞こえていた。
しばらく懸命に腕を動かしていたけれど、集中力は長く続かなかった。
ああ、もう今日はきっとそういう日なのだ。
仕方がない。そういえば排卵日から生理周期に入るまではPMS?でだるさやイライラ感があると言ってた。誰かが。





きっと誰かが。そう言っていた気がする。
だから、今日の集中力の悪さは仕方がないことなのだ。
そう、自分にとって都合のいい理由を探してついには、シャープペンシルをころころ、と転がして、そのままベットに飛び込んだ。




このベットは自分しか眠っていないので、当然自分のにおいしかしないはずなのに。
なんとなく顔を深々をうずめていたら、少しぐらい金田さんの匂いがするんじゃないか、と思ってしまう。
たばこ、にがい匂いと、柔軟剤のあまい匂い。





いつのまにか距離は近くなってしまったけれど、本当はどれだけ距離が縮まっているのだろう。
私が触れることを決して許さず、金田さんもまた私には決して触れようとしない。
けれども、一つ屋根の下で夜を過ごして朝を迎えるのはもう何度だって繰り返してた。




「…怖いなあ」




当たり前になりつつある日常が。
部屋に少しずつ増えてきた、私の趣味じゃなかったものが。
金田さんの痕跡が。




いつかすべて失ってしまう時が来るのだろう。
その時が来て、私は彼なしで生きていけるのだろうか。
当時私が持ち合わせていたすべてをささげた彼を、失った後で私は彼を、





そんな世界を恨まずに生きていくことができるのだろうか。





案外図太く、しぶとく生きているのかもしれないけれど。f:id:Azhtyg:20170514130641j:plain

春の葬式

名前を与えられなかった星は燃えて消え尽きるのだという。それにロマンを無理やり結びつけたのが流れ星という存在だろう。死んでいくそれに自分の思いを結びつけるなんて、なんで自殺行為なんだろう、と思いにふけたのはいつの日のことだろう。

 

 


声を失ったコマドリは。足を傷つけられたバレリーナは。人生の余暇をどのようにして過ごすのだろう。もしかすれば運命を呪って?それとも運命を受け入れて?

 

 


結局真夜中に流星の1つなんか見つけることなんかできずに朝方になって帰った。朝日に照らされたのは予想外に自宅近くだった。灯りがないと何も認識できないことを少し情けなく思った。

 

 


「学校、送っていこうか?」
「時間はありますから、大丈夫ですよ」
「……そっか」

 

 


金田さんはわたしの家に着いた後、当たり前のように2人分のコーヒーを準備した。お湯を注ぐだけの簡単なインスタントだけれども、金田さんが準備してくれたというのもあっていつもより美味しく感じられた。

 

 


「今日からしばらく、東京だよ」
「そうなんですか」
「寂しくなるねー」
「いえ、別に」
「またまたー」

 

 


金田さんもわたしもコーヒーはブラックで、一口飲んでは熱いね、と互いに笑った。

 

 


金田さんはつかみどころのない人間で、わたしの夢であって希望であって、時に残虐な行いをする。優しくなんかしないでほしいのに優しくして、いつまでもわたしの心に住み続けるのだ。

 

 


「朝ごはんどうします?」
「おれいいや」
「そうですか、」
「あ、やっぱり食べる」
「どっちですか」

 

 


昨日の行いに対して、金田さんはわたしに何もなかったかのように接してくれている。一層のこと、わたしのことなんか、置き去りにしてくれたらよかったのに。

 

 


本当はわたしが死にたかったと、

殺してくれと縋り付いた私なんて。

 

 


金田さんは何も聞かなかったかのように、何も知らないかのように、全てを知っているからこそ私の本音に無視を決め込んでくれているのかもしれない。

 

 


沈黙に耐え切れずつけたテレビは偶然天気予報を報道していて、今日の京都は随分暑くなるみたいだった。

 

 

 

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流星の流れ屑

「あれ、ハイエースだ」
「ちょっと山に行くからね」
「は?山?」

 

 

 

夜23時。もう少しすれば日付が変わって今日は昨日に変換されて、同時に明日が今日になる。そんな時間に金田さんはバンド用のハイエースを私の家まで乗り付けて、今だ。場所は知らなかったし、でも朝にスニーカーの方がいいと言われていたので、動きやすい服装はしているけれど。

 

 

 

「今日は楽器ないから広々座れるよ」
「後ろ座ったらいいです?」
「なんで?」

 

 

 

好きなのに、いざとなったら逃げてしまうのは昔から何に対してもだった。なんだか私はそこの場所に値する人間でないと、人間ですらない何か化け物だと思ってしまうのだ。

 

 

 

「え、あ、」
「隣に座ればいいじゃない」

 

 

 

ジャアジャアシツレイシマシテ。そんなカタカナが似合うデタラメな言い方をしてそのまま助手席に乗り込んで黙ってシートベルトをつけた。金田さんもそれを確認してから自身のシートベルトをつけて私の知らない目的地まで運んでいく。

 

 

 

幸いなことに私の住み家の近くは大学があり、比較的街灯も多い。しばらくの間はぼんやり外を眺めてどこへ行くのか、と考えていた。けれども街灯が少なくなるにつれて、まるでこれは人生の縮図のようだとさえ思えてきたのだ。

 

 

 

「明日も学校?」
「え、あ、はい」
「なのに夜予定空けてくれたのね」
「そりゃ、金田さんですし」

 

 

 

ハイエースは細い細い道の中を入って、ついには街灯は見えなくなった。乗り込んでどれだけの時間が経っていただろう。

 

 

 

「危機感がないよね」

 

 

 

ハイエースはどこへ向かっているのだろう。目的のない、その場所まで。外は真っ暗でなんの明かりも無しで外に出て仕舞えば前後左右もわからなくなったことだろう。

 

 

 

「私、殺されるんです?」
「やだーおれ、殺人者になりたくないー」

 

 

 

そもそもどこに殺す理由があるのって言う前にそこはまず犯されるとか、思い浮かぶもんじゃないの?と金田さんは車を停めて、こちらをじっと見ていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

私は何も答えられず、ただ外を見るだけだった。真っ暗。車のライトも決して仕舞えばそれこそ何も見えなくなるほど、辺りは暗い。まるでこの先の未来のような。

 

 

 

「本当は、昨日くる予定だったんだ」

 

 

 

でも、ひどく泣いて帰ってきたらからね。それどころじゃなかったよね。エンジンが止められて辺りは静まり返る。気まずくなって外に出ようとしたらロックを素早くかけられた。外そうとしてもその度に彼はロックボタンを押す

 

 

 

「外にでちゃダメだよ」
「どうしてです?」
「君、よからぬことを考えているから」

 

 

 

金田さんは何度となく続く攻防戦にしびれを切らしたのかわたしの腕を掴んで自分に目を合わささてきた。端正な顔が近づいてきたけれどそこにはわたしが夢を見るような甘い展開はない。

 

 

 

「昨日ここには、たくさんの星が降り注いだ」
「……」
「もしかしたら今日もいきそびれた星があるかもしれない」
「……」
「君の願いは何?」

 

 

 

わたしの願いは何だろう。金田さんとずっと一緒にいたい、可愛いと思われたい。優しくされたい、優しくしたい。綺麗になりたい。痩せたい。賢くなりたい。お金が欲しい。でも本音は。

 

 

 

「死にたかった」

 

 

 

祖父が死ぬよりわたしが死ねばよかった。なんの功績もないわたしなんかが生きるより、ずっと素晴らしい祖父が。この世の何もかもから解放されて羨ましかった。実りのない恋から、病気から、明るくない未来の、何もかもから解放されて、私はただただ羨ましかった。

 

 

わたしが一番、死にたかった。

できることならあなたの手で。

 

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